医学や薬学などの専門的な知識を活かして文書作成をするメディカルライター。専門性が高く、文書で医療に貢献できるとても素敵な仕事です。しかし、具体的な仕事内容が分からないという人も多いでしょう。

この記事では、メディカルライターの仕事内容や混同されがちな医療ライターとの違い、必要な資格やスキル、未経験から目指す方法などを現役メディカルライターが詳しく解説します。

メディカルライターとは

メディカルライターは、医療・薬学分野における文章作成(メディカルライティング)を専門とする職種です。

対象読者は研究者や医療従事者、一般人まで多岐にわたり、それぞれの読者に合わせた文章力が求められます。いずれの場合も、科学的根拠に基づいた正確な情報を用いた執筆が不可欠です。

メディカルライターは、法規制やガイドラインの遵守はもちろんのこと、一次情報を正確に理解し、それを基に文章を作成する能力が特に求められます。

メディカルライターの仕事内容は?

メディカルライターの仕事内容は、就職先により業務内容が異なります。大きく分けると以下の3つです。

  • 医薬品・医療機器の開発に関する業務
  • 医療従事者・患者向けの資料の作成
  • 紙・Web媒体での記事制作など

ここでは業務の難易度順にそれぞれの業務について詳しく解説します。

医薬品・医療機器の開発に関する業務

医薬品・医療機器の開発に関連する業務は製薬企業やCRO(医薬品開発業務受託機関)に所属し、製品の開発から承認に至るまでの必要な文書作成を担当します。

これらの文書は、臨床試験や新薬開発、医療機器の製造販売承認プロセスに不可欠であり、専門知識と高度な文書作成能力が求められます。

具体的には、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出する治験計画届書(CTN)、同意説明文書、治験総括報告書(CSR)、コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)など、多岐にわたる専門文書を作成します。

こうした文書作成には、医学・薬学の専門知識に加え、法規制やガイドラインへの深い理解が必要です。メディカルライターは、その高い専門性から業界内で非常に重要な役割を担っています。

医療従事者・患者向けの資料の作成

医薬品や医療機器の販売促進を目的とした広告や資料の作成も業務の1つです。

具体的には、医薬品や医療機器のパンフレット・リーフレット・冊子の作成、MR資料、学会資料の作成、学会レポートの作成、製薬・医療機器メーカーなどの製品プレスリリースの企画・作成・編集などを行います。

就職先の企業ごとに特色があり、何をどこまで担当するかは異なるものの、この業務においても医学・薬学の専門的な知識が求められます。

一般向けの紙・Web媒体での記事制作など

健康増進や病気の認知向上、正しい理解に向けて、一般向けに医療記事の執筆を行うこともあります。

例えば、病気の症状や原因、治療法などの解説記事や、予防医療、美容医療、メンタルヘルスなど人々の「ウェルビーイング(Well-being)」の実現に向けた記事などです。こちらも、企業ごとに特色がありますが、医療知識の正確性が求められます。

医療ライターとの違いは?

医療ライターは医療分野の文章作成を専門とする職種で、メディカルライターの業務内容と同様に、医療従事者や患者向けの資料作成、一般向けの紙・Web媒体での記事制作を担当します。

「メディカルライターと医療ライターは別物なのか、同じなのか」という疑問が生じるかもしれませんが、両者の境界は曖昧で明確な定義はありません。そのため、メディカルライターの業務の中に医療ライターが引き受ける業務も含まれると考えて問題ありません。

ただし、メディカルライターは企業向けや医療従事者向けのパブリックな文章を担当する場合が多く、医療系の専門職や理系出身者でこれまでの実績を求められる傾向が強くなります。一般向けのコンテンツ制作の比重はそう多くはありません。

一方、医療ライターは、一般の人向けのコンテンツの制作が多いです。ITライターや金融ライター、美容ライターのように医療資格がなくても名乗ることができるため、異業種からでも転職しやすい傾向があります。

筆者の中山はどちらなのか?とよく聞かれるのですが、その答えはメディカルライターです。

CTD作成や薬機法・医療広告ガイドラインなどのパブリック案件にも関与しつつ、一般の人向けの記事制作や書籍執筆をお引き受けしています。

媒体によっては便宜上「医療ライター」と名乗ることもありますが、基本的な立ち位置としてはメディカルライター兼編集者、ディレクターと考えていただければと思います。

関連記事:医療ライターとは?仕事内容や必要な資格、始め方などを徹底解説!

メディカルライターの就職先や活躍の場は?

一口にメディカルライターと言っても、就職先により業務内容は大きく異なります。メディカルライターを目指すのであれば、「この職業に就いてどんな業務をしたいか」を明確にし、その上で就職先や業務委託先を検討することが大切です。

ここからは、メディカルライターの主要な就職先を紹介します。

製薬企業やCRO

製薬会社やCRO(開発業務受託機関)のメディカルライターは、医薬品開発に不可欠な専門職です。製薬会社は医薬品の企画から製造・販売まで一貫して手掛ける一方、CROは製薬会社から臨床試験や研究開発業務の一部を受託・代行します。

メディカルライターの主な業務は、治験実施計画書(CTN)、治験総括報告書(CSR)、新薬承認申請書類(CTDなど)といった規制当局向けの文書作成です。さらに、学会発表用のアブストラクトやポスターの作成、論文執筆サポートなども担当します。

なお、具体的な業務内容は企業によって異なるため、自身の希望する業務内容と合致するかどうかを事前に確認することが大切です。

医療系の制作会社・事業会社

医療系の制作会社や事業会社は、医療従事者や一般の方々、または企業向けに、コンテンツや資料を作成しています。

具体的な業務は多岐にわたり、一般の方に向けた病気や症状をわかりやすく解説するフリーペーパー、書籍、Web記事、動画コンテンツの台本作成などがあります。また、医療従事者向けには医薬品や医療機器の販促資料の作成も行います。

事業会社の場合、自社製品・サービスの販促を目的としたセールスライティングを担当することもあります。

医療系の制作会社や事業会社はそれぞれ業務内容が異なるため、メディカルライターが担当する業務について事前に確認することが重要です。

フリーランス

メディカルライターは、フリーランスとして企業から業務委託を受ける働き方も可能です。得意な業務に特化することも、幅広い業務を請け負うこともできます。

ただし、フリーランスはこれまでの経験や実績が重視される傾向にあるため、まずは企業に勤めて経験を積むことをお勧めします。未経験からすぐにフリーランスでメディカルライターを目指すのは、あまり現実的ではありません。

メディカルライターに資格は必要?

結論から言えば、メディカルライターに専門の資格は不要です。しかし、専門的な知識が必要なため、求人の際に以下のような応募条件を定めている場合があります。

  • 医療系の国家資格(医師・看護師・CRA・臨床工学技士など)
  • 四年制大学もしくは大学院卒
  • 理系卒(医学・薬学・生物学・生命科学・バイオ系)
  • 文書執筆・編集経験がある
  • 英語力(論文の読解や海外文謙の調査が問題なくできる程度)

など

特に転職の場合は、必須事項として上記を求められるケースがあります。メディカルライターになるための資格は不要ですが、医学や薬学に関する知識や英語力などのスキルが必要です。

未経験でメディカルライターを目指すのであれば、後述する必要なスキルを身につけましょう。

メディカルライターに必要なスキル

医療情報や医薬品のエキスパートになるためには、医療や薬学の知識をはじめ、英語力や分析力、文章力などのスキルを求められる場合があります。具体的にどのようなスキルが必要なのか、ここでは5つに絞り紹介します。

1.医学や薬学に関する基礎知識

医薬品・医療機器、疾患、症例など医療関連の文書を執筆するメディカルライターは、医療への理解が必要です。

文章を作成する際に、医学や薬学の知識がないと国内外の医療論文や治験データを正しく理解できず科学的根拠に基づいた文書作成はできません。専門用語ばかり並ぶ資料を見てもチンプンカンプンであれば、まずメディカルライターの土俵に立つのは難しいでしょう。

一般向けの文書作成においても難しい専門用語をわかりやすくかみ砕いて説明する必要があるため、やはり医療知識が必要不可欠です。

2.薬事規制に関する知識

薬事規制に関する知識もメディカルライターにとって必須スキルの1つです。薬事規制とは、医薬品や医療機器、化粧品、再生医療等製品の品質や有効性、安全性を確保して、国民の健康を守るための法律上の規制全般を指します。

その代表的な法律が「薬機法(旧薬事法)」「医療広告ガイドライン」「医薬品等適性広告基準」などです。

例えば、製薬会社や医療機器メーカー、化粧品会社などの医薬品や医薬部外品、化粧品、医療機器などの製品を製造・販売するすべての企業や、医薬品などを取り扱う薬局やドラッグストア、医薬品や医療機器、医療に関連する広告を掲載するメディアや広告代理店などは、さまざまな法規制を理解し遵守しなければなりません。

特に広告や医療記事などに各種法律に違反した表現があれば、虚偽・誇大広告として措置命令や課徴金などのペナルティを課される場合があります。

医薬品・医療機器の開発に関する業務においては、試験データに関わる情報管理や薬の価格設定、製品の情報管理に関する知識も必要です。

製薬会社やCROでは、各種申請書類、プロトコル作成などの薬事規制への理解があることを前提に専門性の高い仕事を行うため、法規制への理解を深めておきましょう。

3.英語力

英語力もメディカルライターが身につけておきたいスキルのひとつです。文書作成する際に情報元として閲覧するのは、日本の論文や資料だけではありません。世界中のデータを活用する場合もあり、そうしたときに英文を読むスキルも必要です。

現在では翻訳ツールも随分と発達しており、英語がわからないときにそうしたツールに頼ることもできます。

しかし、専門用語が頻出する医療においては翻訳ツールを使うと、専門用語が正しく変換されなかったりニュアンスが微妙に違ったりすることがあります。

案件によっては英語で書かれた文章を正しく読み取れなければ、業務を進められないケースもありますし、英語で執筆する機会もあります。医療において、国内外の最新情報のキャッチアップが欠かせないため、英語力は大切であると言えるでしょう。

4.分析力

医療に関する文書は、よくデータを用いて説明されます。こうしたデータがあることで、客観的に判断することができ、それを分析することで医薬品や医療機器の開発などに役立てられます。

医療記事においては、こうしたデータが患者の意思決定にも関わっており、病気の予防や早期受診にも役立てられているのです。

メディカルライターとして分析力があれば、医学的に正しい情報かを判断することができますし、論文を引用する上でどこがポイントなのかを見極めることもできます。

メディカルライターが扱う医療情報はさまざまな人の健康に関与するため、正しく解釈できる分析力を身につけましょう。

5.文章力

メディカルライターは医薬品や医療機器などの開発の文書作成から一般の人向けの文書作成まで対象者は幅広いです。そのため、クライアントからの要望に合わせた文書をかく必要があります。

専門用語を多用した堅めの文書を作成することもあれば、一般の人に向けて専門用語を使わずに分かりやすい記事を執筆することもあるため、それぞれに合わせてトンマナを変える文章力が必要です。

未経験からメディカルライターになるには?

メディカルライターは専門的な資格がない分、何から勉強すればよいかわからない人も多いでしょう。また、企業ごとに専門性や業務内容も異なるため、実践的な取り組みをするのが難しいです。ここでは業務内容別の未経験からメディカルライターになる方法を紹介します。

医薬品・医療機器の開発に関する業務をしたい場合

医薬品・医療機器の開発に関する業務において、作成手順や申請の進め方などの一連のフローが公になることは少ないため、未経験ではなかなかイメージがつかないかもしれません。

未経験で応募できる求人もありますが、多くの場合は医学や薬学の知識や経験がある人を募集する傾向があります。そのため、学生時代に医学・薬学などの理系を専攻していた人が有利です。

文系卒で業界未経験の場合は、医薬品・医療機器開発に関する業務への関与は非常にハードルが高いです。まずは、医療分野の知識を身につけ、出版社や制作会社でキャリアを積みましょう。

医療従事者・患者向けの資料の作成する業務をしたい場合

医療従事者や患者向けの資料を作成する業務をしたい場合にも、前提として医療分野への知識があることが大前提です。

これらの業務は、出版社などが引き受けている場合も多く、医療系の資格や理系卒ではない場合でも、転職できる可能性があります。

ただし、ある程度の医療知識があること、もしくは転職したのちに学ぶ意欲があることが求められます。加えて分析力や英語力も必要となるため、この業務に携わりたい場合は転職前から勉強しておくことをおすすめします。

一般向けの紙・Web媒体での記事制作に携わりたい場合

一般向けの医療記事制作に携わりたい場合、業界未経験でも活躍できる余地があります。医療ライターと同じ働き方ですね。

一般向けの医療記事は病気や症状の解説記事をはじめ、健康増進を促す記事、美容医療の記事、医療機関のサイト内のブログ記事など、さまざまなジャンルで執筆できます。

とはいえ、真偽を判断できるだけのリテラシーは必要です。まずは、医療記事を執筆する上で一次情報を参考にしなければなりません。情報源は医療論文や公衆衛生上の統計データ、学会や研究会のデータなどさまざまですが、真偽を見極める医療知識が必要です。

医療ライターを目指すには、まずは各媒体での記事の書き方を学んだ上で、必要な文章力をつけましょう。そして、自分のこれまでのスキルを活かせるジャンル(IT、金融、子育て、美容、法律、暮らしなど)を選んでライターとしての経験を積んだ上で医療分野に挑戦するのもおすすめです。

メディカルライターや医療ライターの専門書はある?

メディカルライターや医療ライターになるために、専門書で体系的に学びたいと思うでしょう。

メディカルライターと医療ライターを区別した本はなかなかないのですが、両者に通ずる本として、ライフサイエンス出版さんの「こうすれば医学情報が伝わる !!わかりやすい文章の書き方ガイド」がおすすめです。

ライフサイエンス出版「こうすれば医学情報が伝わる !! わかりやすい文章の書き方ガイド」

難しい医療情報を分かりやすく伝えるための方法が詰まっている良書です。そのほか、筆者の中山がメディカルライティングのために、定期的に読み返している本を、関連記事にてご紹介しています。気になる方はぜひご必読ください!

近日公開! 関連記事:メディカルライターや医療ライターにおすすめの本12選

まとめ

メディカルライターは、医療文書を作成する職種で、製薬企業やCROで医薬品・医療機器開発に携わったり、医療従事者や一般の人向けに医療文書を作成したりするなど、非常にやりがいのある仕事です。

未経験からメディカルライターになるにはハードルが高いですが、決して不可能というわけではありません。本記事を参考に、メディカルライターを目指してみてはいかがでしょうか。